さんゆうねっと

お手伝いハルコの食の森羅万象

長年食を多面的に観察してきた後藤晴彦(お手伝いハルコ)が、食文化の現在過去未来を考察します。

甘酒、白酒、濁り酒ってどう違うの?

寒い季節には甘酒を、3月の雛祭りには白酒を…。皆さんは甘酒と白酒の違いって知っていましたか?

落語に与太郎と酒粕の噺があります。酒の呑めない与太郎が、とある所で酒粕をご馳走になって、顔を真っ赤にしてオジさんの所にやって来ます。オジさんが与太郎に酒を呑んだのかと訊くと、酒粕を二枚食べたと。オジさんからは、そんな時には「茶碗で二杯呑んだ」と言うのだと教わった与太郎ですが、他で間違えて「冷やは体に悪いから、焼いて…」というオチ。

実は、与太郎が顔を真っ赤にした酒粕は意外にアルコール度数が高く、6~8%ほどあるのです。ビールのアルコール度数が4~5%くらいなので、酒に弱い人なら酒粕で酔っぱらってもおかしくない訳です。この酒粕を湯で溶き、砂糖を入れると甘酒になりますが、本当の甘酒ではありません。甘酒は、水分を多めにして炊いた米やお粥に米麹を加えて発酵させて作ります。一晩の発酵で完成するので、別名『一夜酒(ひとよざけ)』とも呼ばれています。酒という名称ですが、アルコール分は1%未満なのです。

白酒(しろざけ)は、蒸したもち米に同量以上の味醂(みりん)を加える、あるいは蒸したもち米に焼酎と米麹を加えたものを数週間後に臼で引きおろして作るのですが、実はアルコール度数が10%を超える酒なのです。

甘酒と言えば、雛祭(ひなまつり)。「あかりをつけましょ ぼんぼりに?♪」ではじまる『うれしいひなまつり』(サトウハチロー作詞)の3番目の歌詞の後半には、
すこし白酒 めされたか
赤いお顔の 右大臣
とあります。わずか1%のアルコールで顔が赤くなるものでしょうか?


雛祭は、元々「上巳の節句(じょうしのせっく)」と云って、邪気を払う季節の節目の行事でした。謂れは、大蛇を腹に宿してしまった女性が、この日に白酒を飲んで、大蛇を流産させることができたという言い伝えから、悪い子が宿らないようにとの厄除け、そして厄払いの意味を込めて白酒を飲むことになったという伝説があります。当初は男女関係のない行事でしたが、やがて女の子の誕生と健やかな成長を願う節句(桃の節句)となり、子どもに飲ますには白酒の度数が高いので甘酒を出す様に変わっていったのです。

千代田区猿楽町に『豊島屋(豊島屋本店)』という東京最古の酒舗があります。現在はお茶の水の山の上ホテルの近くなのですが、江戸時代には中心部として栄えていた神田鎌倉河岸にあって、慶長元年(1596年)創業の酒屋兼居酒屋が起源です。この豊島屋こそ桃の節句の白酒を定着させた店なのです。人気の時代劇小説である佐伯泰英『鎌倉河岸捕物控』(NHKの時代劇ドラマの原作)の中でも登場するのですが、豊島屋は関西から運ばれた「下り酒(くだりざけ)」を販売し、味噌を豆腐に塗った後に焼いて供する「豆腐田楽」を提供していましたので、豊島屋は日本における居酒屋のルーツとも言われています。豊島屋は、味醂をベースに、餅米や麹などを使って作った白酒を売り出した所、大変話題になり、店の前には白酒を買いにきた人が溢れ行列をなしたそうです。女性が人前で飲酒することが憚られていた時代には、白酒は桃の節句の前に売り出され、雛祭用ということで飲まれていました。

甘酒や白酒と同じ白い酒に、「濁り酒」があります。日本酒を造る工程のひとつに、上槽(じょうそう)と呼ばれる醪(もろみ)を固体(=酒粕)と液体分(=原酒)に分ける作業があります。発酵によってできた醪を酒袋に入れ、圧力をかけて搾っていく際に目の粗い酒袋を使うことで、醪の中の溶けきれていない米の固体部分が原酒の中に残り、これが白濁した濁り酒のもとになるのです。

では、白濁している酒「どぶろく」は濁り酒かと言うと、これが違うのです。濁り酒は清酒を造る工程の一部で粗く絞りますが、どぶろくは醪を個体と液体に分けるという工程を行わない酒を指します。酒税法では、醪を固体と液体にわける工程を経なければ、「清酒」と名乗ることはできません。なので、甘酒は「清涼飲料水」、白酒は「リキュール類」、そして濁り酒は「清酒」で、どぶろくは「その他の醸造酒」と区分されているのです。いずれにしても、酒は米を中心とした日本人の根幹を成している重要な食文化ですね。