さんゆうねっと

お手伝いハルコの食の森羅万象

長年食を多面的に観察してきた後藤晴彦(お手伝いハルコ)が、食文化の現在過去未来を考察します。

糖質のお客様は後ほどご乗車ください -時間栄養学の旅

長年健康関連の雑誌や書籍の制作に携わってきましたが、お題目のような文言が必ずあるのです。
「毎日規則正しい食事、充分な睡眠、適度な運動、ストレスをためない」
はい、ごもっともです。しかし、実態はと言うと、朝食を抜いたり、深夜にご飯を食べたりと、食事時間は不規則で、慢性睡眠不足で運動もせず、ストレスだらけという生活なのです。

昨年から、兵庫県尼崎市にある池田病院という糖尿病と肥満症専門の病院の本を制作するために、何回か通って院長先生の取材をしています。5年ほど前に制作したこの病院のレシピ本の評判が良く、2冊目の本を出版することになったのです。当初は、AGEs(Advanced Glycation End Products)というタンパク質が糖化して出来る老化の原因物質を抑えるという内容の企画を持って行ったのですが、先生の方から『時間栄養学』ではと。

時間栄養学!?さて、何でしょうかと訊ねると、「薬を服用する時に食後とか食間などと指示されますよね。例えば、高血圧の方で夜に血圧が高くなりやすい場合には夜多めに服用して、薬効を高めます。薬の効果を一番高めたい時間によって、投与する時間を決めます。この研究領域が『時間薬理学』ですが、食に関しても栄養学の分野で研究されたのが『時間栄養学』という分野なのです」と院長先生。

Jeffrey Connor Hall(ジェフリー・C・ホール)博士らが2017年にノーベル生理学・医学賞を受賞した体内時計(サーカディアン・リズム)に関する研究から、時間医学や時間栄養学という分野が世界中に広まっていったと言われていますが、池田病院でも多くに患者さんに時間医学・栄養学的な指導をされているそうです。

体内時計の指揮をとっている中枢は、脳の視床下部にある視神経が交叉している部位「視交叉上核(しこうさじょうかく)」という領域にあります。ここがカラダ全体の親時計となって、大脳皮質や海馬(かいば)などの脳、心臓、肺、肝臓、腎臓や筋肉など、カラダのあらゆる細胞に存在する時計遺伝子を司り、一日のリズムを刻んでいます。


この一日のリズムは「サーカディアンリズム(概日リズム)」と呼ばれており、サーカディアンリズムをコントロールする遺伝子群が時計遺伝子です。現在、20種類ほどの時計遺伝子が見つかっており、それぞれの時計遺伝子が、言わば時計の針などの役割を担って、全体で調和を保って働いているわけです。

但し、ヒトの体内時計は実は少しずれているそうなのです。一日の周期は24時間ですが、人間の体内時計の周期は平均24.5時間。そのまま放置していると、カラダの中の時間がどんどんずれていきます。暦なら、約4年に一度日にち「うるう日」を増やして調整しますが、人間はそうではありません。体内時計が乱れると、健康被害が生じてしまいます。

そのままだと毎日少しずつずれていきますが、これは簡単にリセット出来るのだとか。その方法は何だと思いますか?そのひとつは「朝太陽の光を浴びること」なのです。これだけで体内時計はリセットされます。

それと、もうひとつ重要なことは、しっかりと朝食をとることです。英語で朝食を“breakfast(ブレックファースト)”と言うことは、どなたでもご存知でしょう。しかし、単語を分けてみると、“break”は「壊す」、”fast”は「断食」という意味になります。「ブレックファースト」というよりも「ブレイクファスト」が本来の意味で、夜眠っている間は食事が出来ない状態が続いており、その断食状態を朝食で破る、すなわち「断食を壊す(break+fast=breakfast)」と表現したことから出来た言葉なのです。夜間の断食後の最初の食事は、昼に食べたとしても「ブレイクファスト」なのですが、朝起きて太陽の光を浴びて朝食をとり、体内時計がリセットされることによって、カラダが活発に動き始め、代謝機能も高まります。余りにも当たり前過ぎるお話を聞いて最初は戸惑いましたが、長年お題目のようだと思っていた文言が科学的な視点によって、なるほど至極納得したのです。

ここ数年、低糖質ダイエットやロカボといった糖質制限を推奨する流行がありましたが、糖質はカラダに必要な栄養素であって、エネルギーの50~60%は糖質で摂るのが望ましいとされています。著しく制限してしまうと栄養バランスが崩れ、病気や寿命にも影響を及ぼしますが、健康を維持する食事という面でも時間栄養学が役立ちます。炭水化物(糖質+食物繊維)やタンパク質、脂質の食べる順番を変えるだけで、血糖値も上げずに太りにくい体質も作ることができるのです。それは、野菜を炭水化物よりも先に食べること。

「糖質のお客様は後ほどご乗車ください」