さんゆうねっと

お手伝いハルコの食の森羅万象

長年食を多面的に観察してきた後藤晴彦(お手伝いハルコ)が、食文化の現在過去未来を考察します。

秋だ、栗だ、モンブランの季節だ!

来週に栗の取り寄せしたからよろしくね、とオクサマ。

年に一度の苦行の季節がやってきました。食べれば美味しいのですが、これほど調理の面倒な食材はあるでしょうか。

一番外側は刺々しいイガで覆われ、その内には超硬い鬼皮、そしてこびり付いて剥がれにくい渋皮と三重の鎧で覆われている栗。その実の部分はどこかご存知ですか。私達が一番美味しく食べている部分は種!それでは実はどこかと云うと、硬い鬼皮と渋皮の部分で、外の栗を包んでいるイガイガは皮なのです。

秋になると、栗のスイーツが続々と登場します。マロングラッセやマロンクリームなど、日本では「マロン=栗」で、お菓子の名前によく使われていますね。マロンはフランス語の“marron”で、マロニエ(marronnier)の実のこと。しかし、フランス語で栗のことは、マロニエの実のマロンではなく、シャテニエ(hataignier)という木の実の“chataigne(シャティーニュ)”なのです。このマロニエという木はドングリの仲間で、日本名を「セイヨウトチノキ(西洋栃の木)」と言って、その実はあまり美味しくはありません。何故日本では栗が「マロン」となったのか、諸説があってはっきりしないのです。

余談ですが、パリの並木道のマロニエの下にはパリ名物の焼き栗屋さんが出ていて、買って食べてみると、小粒で鬼皮は直ぐはがれて食べやすく、天津甘栗と同じだと思いました。寒い日にはポケットに入れて歩くと、ホカホカしてきますよ。

栗を使ったスイーツの代表と言えば、やはり「モンブラン(Mont Blanc aux Marrons)」ですね。フランス菓子研究家の大森由起子先生とフランス菓子やパリのスイーツ本を一緒に制作したことがあるのですが、大森先生によると、フランスのパティスリーではモンブランはそれほどポピュラーではないそうです。


モンブランの名前の由来は、ヨーロッパアルプスの最高峰である「白い山」を意味するフランス語“Mont Blanc(モンブラン)”で、山の形に似せて作ったことからこう呼ばれているのはご存知のことと思います。アルプス山脈には幾つかの国が接しており、イタリアではモンブランを “Monte Bianco(モンテ・ビアンコ)”と言って、意味は同じ「白い山」になります。その発祥は、イタリアのピエモンテ州やかつてのイタリア領で現在はフランスのサヴォワ地方の家庭で作られていた栗の甘いペーストに泡立てた生クリームを添えたものだと考えられています。栗が実る時期に見られる雪山をイメージして作られていて、今日本で多く見かける茶色のモンブランより本当の雪山に近いのです。

このモンブランをいち早く最初に広めた店が、パリの老舗洋菓子店“ANGELINA(アンジェリーナ)”です。アンジェリーナは、ココ・シャネルが毎日通っていたサロン・ド・テとしても有名ですね。1903年にオーストリア出身のアントワーヌ・ランペルマイエがアンジェリーナを開いたのですが、創業当初からモンブランがあります。オーストリアでは栗の菓子は人気で、ヨーロッパ最高峰の山をイメージして作られたのだそうです。

モンブラン自体の形状は山の頂をイメージしており、イタリアの栗を下にして上に険しい氷河が露出する雪山のように白くしたものから、フランスの白いクリームの上に栗のペーストをふんわりと柔らかくかけたものまで、その表情は多彩です。

日本のモンブランは、東京自由が丘の洋菓子店「モンブラン」の創業者である迫田千万億(さこたちまお)が1933年にフランスのシャモニーへ旅行に行った時に製造する許可を取り、日本で製造販売し始めたのが最初です。土台をメレンゲからカステラに置き換え、栗のクリームにはクチナシで色を付けた黄色の甘露煮を用いたのが日本全国に広がって、日本のモンブランは茶色ではなく、黄色になったのです。長い間日本のモンブランは黄色だったのですが、1984年にパリのアンジェリーナが日本に進出したことで茶色のモンブランが登場し、茶色のモンブランも定番となりました。

アンジェリーナが登場した頃、六本木のあるフランス料理店で食べたモンブランの味が今でも忘れられません。マダムにこんな美味しいモンブラン食べた事がないと言ったら、秋の栗が一番美味し時期にしか作ってないのよ、と。また来年来てくださいね。モンブランは一年中定番のスイーツとなっていますが、本当に美味しいものは一瞬だと。今でも記憶に残っている二度と味わえないモンブランでした。

*画像<アンジェリーナのモンブラン> (後藤晴彦氏より)
出典:大森由起子(2019)『PARIS SWEETS パリのスイーツ手帖』世界文化社 (写真:ベノア・マルタン)