さんゆうねっと

お手伝いハルコの食の森羅万象

長年食を多面的に観察してきた後藤晴彦(お手伝いハルコ)が、食文化の現在過去未来を考察します。

日本料理にニンニクは合わないのか!?

餃子好きが集まって、東京の中央線の餃子の名店を片っ端から食べようではないかという餃子の会がありました。中野、高円寺、阿佐ヶ谷、荻窪…最後は立川と、餃子屋さんを10名ほどの人数で食べ歩いたのです。昼からはじめて、夕方のラッシュアワーに電車に乗り込むと、周りの乗客が皆怪訝な顔をしていました。それもその筈、餃子をたっぷり食べた集団は全員ニンニク臭い息をしていたのですから。

ニンニクは、世界中の至るところで香味野菜として料理によく使われています。イタリアン、フレンチ、スペイン、中国、韓国、タイなどの料理からステーキや焼肉まで、ニンニクの出番は多いのですが、日本料理はニンニクをほとんど使っていません。

なぜ、日本料理はニンニクを使わないのでしょうか。

ニンニクのきつい臭いが繊細な日本料理と合わないのではと、誰もが考えることでしょう。
しかし、8世紀頃には中国経由でニンニクは伝来されており、実はかなり昔から食されているのです。

ニンニクが日本料理に使われない理由のひとつには、仏教の影響があったという意見もあります。殺生を禁じられていた仏教の修行僧は、肉や魚などの動物性食品を口にすることはタブーだったのですが、もうひとつ「五葷(ごくん)」と呼ばれるものも禁止されていたのです。五葷とは、時代や地域によって違いますが、ネギ科などの野菜でニンニク・ネギ・ニラ・玉ネギ・ラッキョウのことです。生姜や山椒も禁止されていた時期もあります。ただし、玉ネギは江戸時代に観賞用として伝来し、実祭に栽培して食されるようになったのは明治になってからです。ネギ類は精のつく野菜で、性欲を刺激するものは仏道修行の妨げになるという理由から、また臭いがきついので食べてはいけないとされていたのです。この中で、生姜・山椒・ネギ・ニラは日本料理によく使われているのですが、ニンニクだけはどうしても使われない食材なのです。例外的に、土佐の鰹料理などの郷土色の強い料理の中には多少ニンニクが使われるものもありますが。


日本の伝統的な料理のルーツのひとつに、平安時代の「本膳料理(ほんぜんりょうり)」がありますが、『源氏物語』の中にはニンニクが登場しているのです。第二帖「帯木(ははきぎ)」の巻で「極暑の薬草を用いて臭いので会えませんが…」というくだりがあって、この極暑の薬草とはニンニクのことで、簡単に言うと「ニンニクを食べて口臭があるので会えません」と。一方、中国の黄檗料理(おうばくりょうり)などを元にした精進料理は、仏教修行の妨げになる五葷のニンニクはタブーで、その流れを汲む懐石料理や会席料理にもニンニクの登場する余地は無いのでした。

先日、あるニンニクの加工食品を製造販売している方と会う機会があり、「日本料理に合わせられるニンニクの加工品を開発したい」というお話がありました。ニンニクと日本料理との相性は最悪だし、いったいどうしたら日本料理にニンニクを使えるのかというテーマを考え始めました。

問題となるは、あの臭い。ニンニクの細胞に含まれるアリイン(Alliin)という無臭の含硫アミノ酸が、ニンニクをすり下ろしたり刻んだりすることで、アリイナーゼという分解酵素の作用によってイオウ化合物であるアリシンへと変化します。このアリシンが、強烈な臭いの元となるのです。アリシンには抗菌作用があり、身体のためには役に立つのですが、この臭いが日本料理には合わないという訳です。アリシンは加熱に弱い物質なので、油と一緒に調理することで分解されにくくなります。なので、西洋料理では、油が低温のうちにニンニクを加えて調理する手法がよく使われています。また、皮ごと煮込んだり、焼いたりすると、臭いは軽減されるのですが、これではあまり日本料理に相応しくないのです。

日本料理にはどういうアプローチが良いのか考え中ですが、これは難題です。