さんゆうねっと

お手伝いハルコの食の森羅万象

長年食を多面的に観察してきた後藤晴彦(お手伝いハルコ)が、食文化の現在過去未来を考察します。

パスタは濃い塩で茹でるべし!?

そばやうどんを茹でる時には、塩を入れない。その理由を、日本料理店「分とく山(わけとくやま)」の野崎洋光さんに訊くと、「うどんには最初から塩が入っているので、塩はいらない。そばは濃いめの汁で食べるのだから、塩は不要だ」と。

今回は、麺の茹で方と塩の関係を考えてみます。

麺の茹で方を調べていて、うどんを茹でる時に塩を入れている方がいると、驚いてしまいました。うどんは茹でることによって、中に含まれている塩分が湯に溶け出し、水分と入れ替わります。この「置換作用」という効果で、早く茹で上がるのです。うどんの種類によって多少異なりますが、茹でている間に塩分は80~90%ほど減少します。たっぷりの湯で茹でるのは、溶け出た塩分が濃くなるのを防ぐためでもあるのです。うどんの塩抜きでもするなら別ですが、塩は不要なのです。

そばはと言えば、塩で下味を付けるとそば独特の風味が損なわれるために、塩は不要と考えられていますが、そば自体に塩で下味をつけると、タレの味と重なってしょっぱくなり過ぎてしまいます。それに、塩味の効いているそば湯はどうでしょうか。飲みたくないですよね。

さて、そこで問題はパスタです。そばと同様、パスタの製造にも塩は使わないのですが、茹でる時には塩が必要です。しかしながら、パスタを茹でる時にも塩は不要だと考えている方々もいます。実は、以前入院していた際、血圧が高くて塩分が制限されたことがあるのですが、退院後に馴染みのイタリアンレストランでこの話をすると、シェフがわざわざ塩を入れずに茹でたパスタを出してくれました。大変ありがたいのですが、パスタの味は普段と違って、それこそ味気ないものでした。そして、この時にパスタと塩の関係を真剣に考え始めたのです。


これまでレシピ本を制作してきた十数名のイタリア料理のシェフたちについて、パスタを茹でる際の分量を比べてみたところ、10人中7人が1リットルの水に対して塩の分量が10gでした。つまり1%です。レシピの多くが1%と記載されており、次に1.5%が2人、2.5%が1人という順序で、1%以下はいませんでした。先述のパスタを茹でる時に塩は不要であるという理由は、パスタの茹で方で「水1リットルに対して、塩小さじ1(5g)」と表示される場合には0.5~0.6%程度の塩分であり、はっきり言って、これなら塩分ゼロとそれほど変わらない訳です。それに、市販のパスタソースの味(塩分)が濃いのでパスタ自体に下味はいらないということのようです。

しかし、これでは美味しいパスタじゃない!プロの作る味を自宅で再現したい!

レシピ上では水1リットルに対して1%の塩分でも、プロの現場ではそれ以上です。以前、遅い時間にイタリア料理店に行こうと電話したところ、「パスタ鍋の湯は落としてしまったのでパスタは作れない」と言われてことがありました。プロの厨房では、大きな寸胴鍋に大量の湯を沸かし、注文に応じてパスタを茹でていますが、基本湯を足すことはあっても湯は変えないので、湯の中の塩分は高くなっている筈です。つまり、パスタを茹でる時の塩分は1%以上なのです。塩を入れた湯を菜箸などで舐めてみて、しょっぱいと感じるくらいの塩分濃度で海水の3%くらいと教わったのですが、ここ30年ほどで減塩の考え方が広まり、使用する塩の量は減ってきています。

パスタは茹でると、デンプンが水と熱で糊化して軟らかくなるのですが、塩には糊化を遅らせる効果があるので、塩分濃度は2.5%くらい必要と言われています。ただ、家庭でこれをやると、塩味が強くなり、さらにパスタソースを加えることでとてもしょっぱいパスタになってしまいます。そこで、山形の人気イタリアン「アルケッチャーノ」の奥田シェフから、濃い塩で茹でた後、引き上げたパスタに熱湯をかけてパスタの表面の塩分を落とすという方法を教えてもらいました。ちょっと手間ですが、美味しいパスタに挑戦したい方はお試しを。