さんゆうねっと

日本酒 四季の旅。識の旅。

日本の歳時を映す日本酒。四季折々の移ろいと長い年月の中で培われてきた、お酒を巡るお話を。

弥生の候

梅から桃に、そして桜が楽しめるこの時期は、日本の四季の中でも最も美しい時期と言えるのではないでしょうか。ひと冬続いた日本酒造りも一段落し、3月後半から、麹や酒母などの酒造りの前半の作業工程を終えてゆく蔵が徐々に増えてきます。

酒造りの終盤、酒の仕込みに使う米を蒸し終えることを「甑倒し(こしきだおし)」と言います。米を蒸していた甑を大釜から外して横に倒して洗うことから、このように呼ばれています。この甑倒しの日には、神に新酒を捧げ、蒸米の無事終了を感謝して、祝いの小宴が催されるのです。

日本酒造りと神事には、古来より深いつながりがあります。中でも、日本酒造の神として広く知られているのは京都・嵐山にある「松尾大社」。全国の多くの蔵に設えられた神棚には、松尾大社が祀られています。


酒造技術に優れた渡来系氏族の秦(はた)氏に由来する松尾大社には、社殿背後にこの水を酒に混ぜると腐敗しないという霊泉「亀の井」があり、醸造家がこれを持ち帰る風習が残っています。また、お守りには造酒守や販酒守、服酒守があって、酒造家から愛飲家まで広く信仰を集めています。

出雲にある松尾神社は「佐香神社(さかじんじゃ)」とも呼ばれ、ここに祀られている神は、全国から出雲大社に集った八百万の神々に酒を醸し振る舞ったという伝説があり、これが日本酒発祥とする説もあります。他にも、新酒が出来た合図である「酒林(杉玉とも)」は、奈良の三輪山の杉の葉から作られたのが発祥とされており、その麓の大神神社(おおみわじんじゃ)が大和朝廷の神事で用いられる酒を醸すという役割を担っていた歴史から、酒造りの神とされています。

全国津々浦々の神社で、奉納された酒樽を目にする機会も多いと思いますが、そんな時、日本酒の歴史や文化的にも思いを馳せてみてはいかがでしょうか。