さんゆうねっと

お手伝いハルコの食の森羅万象

長年食を多面的に観察してきた後藤晴彦(お手伝いハルコ)が、食文化の現在過去未来を考察します。

油断大敵、サラダ油は日本の標準?

昔からギリシャ料理は、どばどばと油を多く使うというイメージがあって苦手でした。では、ギリシャ人はどのくらい油を消費しているのかというと、一人当たり年間約31kg(一般社団法人日本植物油協会HPより)。上位はイタリア、ギリシャ、スペインの順ですが、イタリアは13.6kg、スペインは7.6kgと、ギリシャは断トツ1位なのです(ちなみに日本は年間200g)。このイタリア、ギリシャ、スペインに、ポルトガルとチュニジアを加えると、地中海を取り囲む一帯がオリーブの最大の生産地であると同時に消費地だと判ります。

NHK教育テレビ(現在のEテレ)で、1991年に始まった『ひとりでできるもん!』という子ども向けの料理番組があったのですが、この番組のテキスト制作にかかわっていたことがありました。その当時、料理のレシピで「油」というと「サラダ油」のこと。しかし、イタリアンなどにサラダ油ではおかしいということで、この番組では「オリーブ油」を使うという方針になりました。一説によると、この番組の影響で、全国にオリーブ油が広がったそうです。

さて、このサラダ油って、日本にしかない油なのをご存知ですか。サラダ油は、1924年に日清製油(現在の日清オイリオ)が「日清サラダ油」として発売した植物油で、その後レシピの「油」の定番として定着していきます。実は、このサラダ油というのは、幾つかの植物から精製した油をブレンドしたものなのです。サラダ油に使われている植物油の種類には、紅花油、ひまわり油、綿実油、大豆油、コーン油、胡麻油、こめ油、落花生油、キャノーラ油(菜種油)がありますが、市場に出回っている大手製品の大半は大豆油とキャノーラ油の2種類のみをブレンドした「調合サラダ油」として売られています。サラダ油と同様に、「天ぷら油」と呼ばれているものがありますが、一般的には白絞油(しらしめゆ)のことで、なたね油(もしくは大豆油)の精製油のことです。「太白(たいはく)」という胡麻油で天ぷらを揚げると美味しいのですが、家庭でふんだんに使うには高価なものですね。


油を沢山使う料理と言えば、もうひとつは中国料理です。日本植物油協会のデータによると、中国の植物油の消費に占める割合は、2002年には10%ほどだったのが、2016年には17%に増えています。消費国のイタリアやギリシャを含めてもEUでは世界の総消費量の15%と、中国よりも少ないのです。人口の増加もありますが、中国は油大国ですね。以前、黄檗料理(ふちゃりょうり)という中国から伝わった精進料理の会に参加したことがあるのですが、その翌日は病院の定期検診で、血液検査でコレステロール値がびっくりするほど高い数値が出たことがあります。やはり中国由来の料理は油を沢山使うのです。中国の次に多いのがインドで、世界の消費量の11%を占めています。インドカレーの作り方をキハチの熊谷喜八さんに取材したことがありましたが、喜八シェフ曰く、「インドカレー料理は実は油炒め料理なのだ」。確かに、この消費量を見ると納得できます。

日本で油を使った料理が一般的になったのは明治期からで、世界の油消費大国と比較すると、油の使い分けが余り上手ではないように思えます。現在、地方発の様々な植物油が商品化されているので、色々と試してみてはどうでしょうか。

健康に配慮するあまり油を目の敵にしている方も多いのですが、地中海のオリーブ油のように食生活の改善に?がる上に美味しい油もあるのです。気のゆるみを戒めた言葉に「油断大敵」というのがありますが、本来の謂われは、比叡山延暦寺に根本中堂という本堂の元になったとされる仏堂があって、この中に不滅の法灯があるのですが、最澄が灯して以来1,200年間一度も消えることなく燃え続けており、毎日僧侶の手によって油が注がれることで火は燃え続けているのですが、もしも誰かが油を注ぐことを忘れてしまうと1,200年の灯火が消えてしまうことから、この油断大敵という言葉が生まれました。体にも絶やさぬ良質の油が必要なのです。